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【0】觀音導利興聖寶林禪寺比丘道元撰
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観音導利（かんのんどうり）興聖宝林禅師（こうしょうほうりんぜんじ）道元撰
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【1】佛家從本有六知事。共爲佛子。同作佛事。
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佛家に本（もと）より六知事有り。共に佛子爲（た）りて，同（とも）に佛事を作（な）す。
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【2】就中典座一職是掌衆僧之辨食。
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就中（なかんづく）典座の一職（いっしき）は，是れ衆僧（しゅぞう）の辨食（べんじき）を掌（つかさど）る。
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【3】禪苑清規云供養衆僧故有典座。 |
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『禪苑清規（ぜんねんしんぎ）』に云（いわ）く，「衆僧を供養するが故に典座有り」と。
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【4】從古道心之師僧。發心之高士。充來之職也。蓋猶一色之辨道歟。 |
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古（いにしえ）より道心の師僧，発心の高士（こうし）充て来（きた）の職なり。蓋（けだ）し一色の辨道の猶（ごと）きか。
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【5】若無道心者徒勞辛苦畢竟無益也。 |
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若し道心無きは，徒（いたずら）に辛苦を労して畢竟（ひっきょう）益（えき）無し。
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【6】禪苑清規云。須運道心随時改變令大衆受用安樂。 |
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『禪苑清規』に云く。「須（すべから）く道心を運（めぐ）らして，時に随って改変し，大衆をして受用安樂ならしむべし」と。
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【7】昔日イ（さんずい＋爲）山洞山等勤之。其餘諸大祖師。曾經來也。所以不同世俗食廚子。及饌夫等者歟。 |
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昔日（そのかみ），イ山（いさん）。洞山（どうざん）等之を勤め，其の余の諸大祖師も，曽（かつ）て経来れり。所以（ゆえ）に世俗の食厨子（じきずし），及び饌夫（せんぷ）等に同じからざる者か。
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【8】山僧在宋之時。暇日咨問于前資勤舊等。彼等聊擧見聞。以爲山僧説。此説似者。古來有道之佛祖。所遺之骨隨也。大抵須熟見禪苑清規。然後須聞勤舊子細之説。 |
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山僧在宋の時，暇日，前資勤旧（ぜんしごんきゅう）等に咨問するに，彼等聊（いささ）か見聞（けんもん）を挙（こ）して，山僧の為に説く。此の説似（せつじ）は，古来有道の佛祖の遺す所の骨髄なり。大抵須らく『禪苑清規』を熟見すべし。然して後に須らく勤旧子細之の説を聞くべし。
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【9】所謂當職經一日夜。先齋時罷。就都寺監寺等邊。打翌日齋粥之物料。所謂米菜等也。 |
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所謂（いわゆる），当職（とうしき）一日夜を経す。先ず斎時罷（さいじは），都寺（つうす），監寺（かんす）等の辺（あたり）に就いて，翌日の斎粥の物料を打（た）す。所謂米菜等なり。
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【10】打得了。護惜之如眼晴保寧勇禪師曰。護惜眼晴常住物。 |
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打得し了（お）わらば，之を護惜（ごしゃく）すること眼晴（がんせい）の如くせよ。保寧（ほねい）の勇（ゆう）禪師曰（いわ）く，「眼晴なる常住物を護惜せよ」と。
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【11】敬重之如御饌草料。 |
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之を敬重（きょうじゅう）すること御饌草料（ぎょせんそうりょう）の如くせよ。
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【12】生物熟物。倶存此意。 |
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生物熟物（しょうもつじゅくもつ），倶（とも）に此の意を存せよ。
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【13】次諸知事。在庫堂商量。明日喫甚味。喫甚菜。設甚粥等。 |
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次に諸（もろもろ）の知事，庫堂に在りて商量すらく，明日甚（なん）の味を喫し，甚（なん）の菜を喫し。甚（なん）の粥を設（もう）けん等と。
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【14】禪苑清規云。如打物料並齋粥味敷。竝預先與庫司知事商量。 |
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『禪苑清規』に云く，「物料並に斎粥の味数（みすう）を打するがごときは，並びに預先（あらかじめ）庫司知事と商量せよ。
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【15】所謂知事者有都寺。監寺。副司。維那。典座。直歳也。 |
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所謂（いわゆる）知事には都寺（つうす），監寺（かんす），副司（ふくす），維那（いの），典座（てんぞ），直歳（しつすい）あるなり。
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【16】味敷議定了。書呈方丈衆寮等嚴浄牌。然後設辨明朝粥。 |
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味数を議定し了（おわ）らば，方丈・衆寮（しゅりょう）等の厳浄牌（ごんじょうはい）に書呈せよ。然して後に明朝の粥を設弁（せつべん）す。
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【17】淘米調菜等。自手親見。精勤誠心而作。 |
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米（べい）を淘（と）ぎ菜を調（ととの）うる等は，自ら手ずから親しく見，精勤誠心（しょうごんじょうしん）にして作（な）せ。
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【18】不可一念踈怠緩慢。一事管看。一事不管看。 |
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一念も踈怠緩慢（そたいかんまん）にして，一事をば管看（かんかん）し，一事をば管看せざるべからず。
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【19】功徳海中。一滴也莫譲。善根山上。一塵亦可積歟。 |
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功徳海中，一滴も也（ま）た譲（あたう）ること莫（なか）れ。善根山上，一塵も亦積むべきか。
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【20】禪苑清規云六味不精。三徳不給。非典座所以奉衆也。 |
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『禪苑清規』に云く，「六味（ろくみ）精（くわ）しからず，三徳給（そなわ）らざるは，典座の衆に奉（ぶ）する所以（ゆえん）に非（あら）ず」と。
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【21】先看米便看砂。先看砂便看米。審細看來看去。不可放心。自然三徳圓滿。六味具備。 |
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先ず米（べい）を看んとして便ち砂（いさご）を看，先ず砂を看んとして便ち米を看る。審細（しんさい）看來り看去りて，放心すべからず。自然（じねん）に三徳圓滿し，六味具に備わらん。
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【22】雪峰在洞山作典座。一日淘米次。洞山問。淘砂去米。淘米去砂。峰云。砂米一時去。洞山云。大衆喫箇什麼。峰覆却盆。山云。子佗後別見人去在。 |
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雪峰（せっぽう），洞山に在って典座と作（な）る。一日，米を淘（と）ぐ次（つい）で，洞山問う。「砂を淘り去って米か，米を淘り去って砂か」。峰云く，「砂米一時に去る」。洞山云く，「大衆箇（こ）の什麼（なに）をか喫す」。峰盆（はち）覆却（ふくきゃく）す。山云く，「子（なんじ）佗（た）後，別に人に見（まみ）え去ること在らん」と。
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【23】上古有道之高士。自手精至。修之如此。後來晩進。可怠慢之歟。 |
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上古（じょうこ）有道の高士，自ら手すから精（くわ）しく至り，之れを修すること此（かく）の如し。後來の晩進之れを怠慢すべけんや。
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【24】先來云。典座以絆爲道心矣。如有米砂誤淘去。自手檢點。 |
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先來（せんらい）云う，「典座は絆（ばん）を以て道心と爲す」と。米砂誤まりて淘り去ること有るが如きは，自ら手ずから檢點（けんてん）せよ。
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【25】清規云。造食之時。須親自照顧。自然精潔。 |
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清規に云く，造食（ぞうじき）の時，須（すべか）らく親しく自ら照顧（しょうこ）して，自然（じねん）に精潔なるべしと。
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【26】取其淘米白水。亦不虚棄。古來置漉白水嚢。辨粥米水。 |
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其の淘米の白水（はくすい）を取りて，亦た虚（むなし）く棄てざれ。古來漉白水嚢（ろうはくすいのう）を置いて，粥米（しゅくべい）の水を辨ず。
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【27】納鍋了留心護持。莫使老鼠等觸誤。竝諸色閑人見觸。 |
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鍋（か）に納（い）れ了（おわ）れば，心を留めて護持し，老鼠（ろうそ）等をして觸誤（しょくご）し，竝びに諸色の閑人（かんじん）をして見觸せしむること莫れ。
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【28】調粥時菜次。打併今日齋時所用飯羮等盤桶並什物調度。精誠浄潔洗灌。彼此可安高處安于高處。可安低處安于低處。高處高平。低處低平。 |
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粥時の菜を調ふる次に，今日齋時に飯羮等に用うる所の盤桶（ばんつう）並に什物調度（じゅうもつちょうど）を打併（たびゃう）して，精誠浄潔（せいせいじょうけつ）に洗灌（せんかん）し，彼此（ひし）高處（こうじょ）に安ずべきは高處に安じ，低處に安ずべきは低處に安ぜよ。高處は高平に，低處は低平。
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【29】キョウ（木＋夾）杓等類。一切物色。一等打併。眞心鑑物。輕手取放。 |
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キョウ（木＋夾）杓（きょうしゃく）等の類，一切の物色（もつしき），一等に打併して，眞心（しんしん）に物を鑑（かん）し，輕手（けいしゅ）に取放（しゅほう）す。
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【30】然後理會明日齋料。先擇米裏有蟲。緑豆。糠塵。砂石等。精誠擇了。 |
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然して後に明日の齋料（さいりょう）を理會（りえ）せよ。先ず米裏に蟲有らんを擇べ。緑豆（りょくず）・糠塵（こうじん）・砂石等，精誠に擇べ。
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【31】擇米擇菜等時。行者諷經囘向竈公。 |
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米を擇び菜を擇ぶ等の時，行者（あんじゃ）諷經（ぶぎん）して竈公（そうこう）に囘向（えこう）す。
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【32】次擇菜羮物料調辨。 |
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次に菜羮（さいこう）を擇び物料（もつりょう）を調辨（ちょうべん）す。
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【33】隨庫司所打得物料。不論多少。不管麁（鹿＋鹿＋鹿）細。唯是精誠辨備而已。切忌。作色口説料物多少。 |
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庫司に隨いて打得（たとく）する所の物料は，多少を論ぜず，麁（鹿＋鹿＋鹿）細（そさい）を管せず，唯だ是れ精誠に辨備するのみ。切に忌（い）む。色を作して口に料物の多少を説くことを。
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【34】竟日通夜物來在心。心歸在物。一等與佗精勤辨道。 |
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竟日（ひねもす）通夜（よもすがら），物來りて心（むね）に在り，心（むね）歸して物に在り。一等に佗の與（ため）に精勤辨道す。
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【35】三更以前。管明曉事。三更以來。管做粥事。 |
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三更（さんこう）以前は，明曉（みょうきょう）の事を管し，三更以來は，做粥（さしゅく）の事を管す。
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【36】當日粥了。洗鍋蒸飯調羮。 |
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當日の粥了（おわ）らば，鍋（か）を洗い飯を蒸し羮（こう）を調う。
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【37】如浸齋米。典座莫離水架邊。明眼親見。不費一粒。如法淘汰。 |
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齋米（さいべい）を浸（ひた）すが如きは，典座水架（すいか）の邊を離るること莫（な）れ。明眼（めいげん）に親しく見て，一粒（りゅう）を費さず。如法に淘汰せよ。
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【38】納鍋燒火蒸飯。 |
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鍋に納れて火を燒き飯を蒸す。
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【39】古云。蒸飯。鍋頭爲自頭。淘米。知水是身命。 |
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古に云く，「飯を蒸す。鍋頭を自頭と爲し，米を淘る。水は是れ身命なりと知れ」と。
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【40】蒸了飯。便收飯ラ（竹＋羅）裏。及收飯桶。安擡槃上。 |
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飯を蒸し了らば，便（すなわ）ち飯ラ（竹＋羅）裏（はんらり）に收め，及ち飯桶（はんつう）に收めて，擡槃（ばんだい）の上に安ぜよ。
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【41】調辨菜羮等。應當蒸飯時節。 |
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菜羮（さいこう）等を調辨（ちょうべん）すること，應に飯を蒸すの時節に當るべし。
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【42】典座親見飯羮調辨處在。或使行者。或使奴子。或使火客。教調什物。 |
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典座親く飯羮（はんこう）調辨の處在を見，或は行者を使い，或は奴子（ぬす）を使い，或は火客（こか）を使い，什物（じゅうもつ）を調えしめよ。
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【43】近來大寺院。有飯頭羮頭。然而是典座所使也。 |
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近來は大寺院に，飯頭（はんじゅう）・羮頭（こうじゅう）有り。然れども是れ典座の使う所なり。
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【44】古時無飯頭羮頭等。典座一管。 |
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古時は飯頭羮頭等無く，典座一管（いっかん）す。
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【45】凡調辨物色。莫以凡眼觀。莫以凡情念。 |
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凡（およ）そ物色（もつしき）を調辨するに，凡眼（ぼんがん）を以て觀ること莫れ。凡情を以て念（おも）うこと莫れ。
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【46】拈一莖艸。建寶王刹。入一微塵轉大法輪。 |
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一莖艸（いっきょうそう）を拈（ねん）じて，寶王刹（ほうおうせつ）を建て，一微塵（いちみじん）に入いて，大法輪を轉ぜよ。
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【47】所謂縱作フ（艸+甫）菜羮之時。不可生嫌厭輕忽之心。縱作頭乳羮之時。不可生喜躍歓悦之心。既無耽著。何有惡意。然則雖向麁全無怠慢。雖逢細彌有精進。 |
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所謂（いわゆる），縱（たと）えフ（艸+甫）菜羮（ふさいこう）を作るの時も，嫌厭輕忽（けんえんきょうこつ）の心を生ずべからず。縱え頭乳羮（ずにゅうこう）を作るの時も，喜躍歓悦（きやくかんえつ）の心を生ずべからず。既に耽著（たんじゃく）無し，何（なん）ぞ惡意（おい）有らん。然らば則ち麁に向うと雖も全く怠慢無く，細（さい）に逢（あ）うと雖も彌（いよいよ）精進有るべし。
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【48】切莫遂物而變心也。順人而改詞。是非道人也。 |
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切に物を遂うて心を變ずること莫れ。人に順（したが）いて詞（ことば）を改むるは，是れ道人に非ざるなり。
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【49】勵志至心。庶幾浄潔勝于古人審細超于先老。 |
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勵志至心（しいしん）に，浄潔（じょうけつ）なること古人に勝（まさ）れ，審細（しんさい）なること先老に超えんことを庶幾（こいねがふ）べし。
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【50】其運心道用爲體者。古先縱得三錢而作（艸+甫）菜羮。今吾同得三錢而作頭乳羮。 |
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其の運心（うんしん）道用（どうゆう）の體（てい）たらくは，古先（こせん）は縱（たと）ひ三錢を得るときは，而（すなわ）ち（艸+甫）菜羮を作るも，今ま吾（わ）れ同く三錢を得るときは，而（すなわ）ち頭乳羮を作らんと。
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【51】此事難爲也。所以者何。今古殊異。天地懸隔。豈得齋肩者哉。 |
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此の事難（なん）爲（に）なり。所以（ゆえ）は何（いか）ん。今古殊異（しゅい）にして，天地懸隔（けんかく）なり。豈（あ）に肩を齋（ひと）しくすることを得る者ならんや。
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【52】然而審細辨肯（冖＋月）之時下視古人之理定有之也。 |
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然れども審細（しんさい）に辨肯（冖＋月）するの時は，古人を下視（あし）するの理，定（さだ）んで之れ有り。
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【53】此理必然猶未明了卒由思議紛飛兮。如其野馬。情念奔馳兮。同於林猿也。 |
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此の理，必然なるすらを，猶（な）お未だ明了ならざるは，思議（しぎ）紛飛（ふんぴ）して，其の野馬（やば）の如く，情念奔馳（ほんち）して，林猿（りんえん）に同じきを卒由（もつて）なり。
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【54】若使彼猿馬。一旦退歩返照。自然打成一片。是及被物之所轉。能轉其物之手段也。 |
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若（も）し彼の猿馬（えんば）をして，一旦（たん）退歩返照（たいほへんしょう）せしめば，自然（じねん）に打成一片（だじょういっぺん）ならん。是れ及（すなわ）ち物の所轉（しょてん）を被（こうむ）るとも，能（よ）く其の物を轉ずるの手段なり。
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【55】如此調和浄潔。勿失一眼兩眼。 |
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此の如く調和浄潔にして，一眼兩眼を失すること勿（なか）れ。
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【56】拈一莖菜作丈六金身。請丈六金身作一莖菜。 |
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一莖菜を拈じて丈六の金身と作し。丈六の金身を請して一莖菜を作す。
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【57】神通及變化。佛事及利生者也。 |
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神通及び變化，佛事及び利生する者なり。
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【58】已調調了已辨。辨得看那邊安這邊。 |
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已に調ひ調へ了て已に辨じ，辨じ得て那邊（なへん）を看し這邊（しゃへん）に安（お）け。
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【59】鳴鼓鳴鐘。隨衆隨參。朝暮請參。一無虧闕。 |
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鳴（みょう）鼓（く）鳴（みょう）鐘（しょう）には，衆に隨い參（さん）に隨い，朝暮の請參（しょうさん），一も虧闕（きけつ）すること無れ。
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【60】却來這裏。直須閉目諦觀堂裏幾員單位。前資勤舊獨寮等幾僧。延壽。安老。寮暇等僧有幾箇人。旦過幾板雲水。菴裏多少皮袋。 |
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這裏に却來（きゃらい）せば，直に須らく目を閉じて堂裏幾く員の單位ぞ，前資勤舊（ごんきゅう）獨寮等幾く僧ぞ，延壽，安老，寮暇等の僧，幾箇（いくこ）人か有る，旦過（たんが）に幾く板の雲水ぞ，菴裏に多少の皮袋（ひたい）ぞと諦觀すべし。
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【61】如此參來參去。如有纎毫疑猜。問他堂司及諸寮頭首。寮主。寮首座等。銷來疑。 |
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此の如く參じ來り參じ去りて，如し纎毫ぞの疑猜（ぎさい）有らば，他の堂司（どうす）及び諸寮の頭首（ちょうしゅ），寮主，寮首座（しゅそ）等に問ひ，來るべし疑を銷（しょう）し。
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【62】便商量。喫一粒米。添一粒米。分得一粒米。却得兩箇半粒米。三分四分一半兩半。添他兩箇半粒米。便成一箇一粒米。又添九分。剩見幾分。今收九分。見佗幾分。 |
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便ち商量すらく。一粒米を喫するに，一粒米を添え，一粒米を分ち得れば，却て兩箇の半粒米を得（う）。三分四分一半兩半あり。他の兩箇の半粒米を添れば，便ち一箇の一粒米と成る。又九分を添うるに，剩り幾分と見，今九分を收めて，佗幾分と見る。
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【63】喫得一粒盧陵米。便見イ山僧。添得一粒盧陵米。又見水コ（牛ヘン＋古）牛。水コ牛喫イ山僧。イ山僧牧水コ牛。吾量得也未。ナンジ（イ＋爾）算得也未。 |
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一粒の盧陵米を喫得して，便ちイ山僧を見，一粒の盧陵米を添得して，又水コ（牛ヘン＋古）牛を見，水コ牛イ山僧を喫し，イ山僧水コ牛を牧す。吾れ量得すや也た未だしや，ナンジ（イ＋爾）算得すや也た未しやと。
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【64】檢來點來。分明分曉。臨機便説。對人即道。 |
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檢し來り點じて來り，分明に分曉し，機に臨んで便ち説き，人に對して即ち道（い）え。
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【65】且恁功夫。一如二如。二日三日。未可暫忘也。 |
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且恁功夫（しばらくかくのごときのくふう），一如二如，二日三日，未だ暫くも忘るべからざるなり。
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【66】施主入院捨財設齋。亦當諸知事一等商量。是叢林舊例也。 |
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施主院に入て財を捨し齋を設けば，亦た當に諸の知事一等に商量すべし。是れ叢林の舊例（きゅうれい）なり。
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【67】囘物俵散。同共商量。不得侵權亂職也。 |
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囘物（えもつ）俵散は，同く共に商量せよ。權を侵（おか）し職を亂することを得ず。
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【68】齋粥如法辨了。安置案上。典座搭袈裟展坐具先望僧堂。焚香九拜。拜了。及發食也。 |
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齋粥如法に辨じ了らば，案上に安置し，典座袈裟を搭け坐具を展べ，先づ僧堂を望んで，焚香九拜し，拜し了て，及ち食を發すべし。
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【69】經一日夜調辨齋粥。無虚度光陰。 |
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一日夜を經し，齋粥を調辨し，虚しく光陰を度ること無れ。
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【70】有實排備。擧動施爲。自成聖胎長養之業。退歩飜身。便是大衆安樂之道也。 |
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實の排備有らば，擧動施爲，自ら聖胎長養の業と成り，退歩飜身，便ち是れ大衆安樂の道なり。
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【71】而今我日本國。佛法名字。聞來己久。然而僧食如法作之言。先人不記。先徳不教。況乎僧食九拜之禮。未夢見在。國人謂僧食之事。僧家作食法之事。宛如禽獸食法。實可生憐。實可生悲。 |
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而今（いま）我が日本國，佛法の名字，聞くこと己（すで）に久しし。然あれども僧食（そうじき）如法作（にょほうさ）の言，先人記せず。先徳教えず。況んや僧食九拜の禮，未だ夢にだも見ざること在り。國人僧食の事を謂ふ。僧家作食（さじき）法の事は，宛も禽獸の食法の如しと。實に憐みを生ずべし。實に悲しみを生ずべし。
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【72】如何哉。 |
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如何んぞや。
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【73】山僧在天童時。本府用典座充職。予因齋罷過東廊。赴超然齋之路次。典座在佛殿前晒苔。手携竹杖。頭無片笠。天日熱。地甎熱。汗流徘徊。勵力晒苔。稍見苦辛。背骨如弓。龍眉似鶴。 |
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山僧天童に在りし時，本府の用（ゆう）典座職に充てりき。予因（ちなみ）に齋罷（さいは）に東廊を過ぎ，超然齋に赴くの路次，典座佛殿前に在りて苔を晒す。手に竹杖を携へ，頭に片笠無し。天日熱し，地甎熱す。汗流れて徘徊すれども，力を勵め苔を晒す。稍（やや）苦辛を見る。背骨弓の如く，龍眉（ほうび）鶴に似たり。
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【74】山僧近前。便問典座法壽。座云。六十八歳。
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山僧近前して，便ち典座の法壽を問ふ。座云く，「六十八歳」。
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【75】山僧云。如何不使行者人工。座云。佗不是吾。
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山僧云く，如何ぞ行者人工（にんく）を使わざる」。座云く，「佗は是れ吾にあらず」。
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【76】山僧云。老人家如法也。天日且恁熱。如何恁地。座云。更待何時。
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山僧云く，「老人（ろうにん）家（け）如法なり。天日且つ恁（かくのごとく）熱す。如何ぞ恁地なる」。座云く，「更に何（いず）れの時をか待たん」と。
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【77】山僧更休。
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山僧更（すなわ）ち休す。
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【78】歩廊脚下。潛覺此職之爲機要矣。
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廊を歩する脚下，潛（ひそか）に此の職の機要爲ることを覺ふ。
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【79】又嘉定十六年。癸未。五月中。在慶元舶裏。倭使頭説話次。有一老僧來。年六十許歳。一直便到舶裏。問和客討買倭椹。
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又嘉定（かてい）十六年，癸未（きび），五月中。慶元の舶裏（はくり）に在りて，倭使頭説話（せつた）次，一老僧有り來。年六十許歳（ばかり）。一直に便ち舶裏に到り，和客に問ふて倭椹（わじん）を討（たず）ね買う。
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【80】山僧請他喫茶。問佗所在。便是阿育王山典座也。
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山僧他を請（しょう）して茶を喫せしむ。佗の所在を問へば，便ち是れ阿育王山の典座なり。
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【81】佗云。吾是西蜀人也。離郷得四十年。今年是六十一歳。向來粗歴諸方叢林。先年權住孤雲裏。討得育王掛搭。胡亂過。
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佗云く，「吾は是れ西蜀の人なり。郷を離るること四十年を得たり。今年是れ六十一歳。向來粗ぼ諸方の叢林を歴（へ）たり。先年權（か）りに孤雲裏に住し，育王を討ね得て掛搭（かた）し，胡亂に過ぐ。
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【82】然去年解夏了。充本寺典座。明日五日。一供渾無好喫。要做麺汁。未有椹在。仍特特來。討椹買。供養十方雲衲。
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然あるに去年解夏（かいげ）了（りょう）。本寺の典座に充てらる。明日五日なれども，一供（く）渾（すべ）て好喫無し。麺汁を做（つく）らんと要するに，未だ椹（じん）の在らざる有り。仍（よっ）て特特として來る。椹を討ね買いて，十方の雲衲に供養せんとす」と。
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【83】山僧問佗。幾時離彼。座云。齋了。
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山僧佗に問ふ，「幾ばく時か彼（かしこ）を離れし」。座云く，「齋了（さいりょう）」。
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【84】山僧云。育王去這裏有多少路。座云。三十四五里。山僧云。幾時廻寺裏去也。座云。如今買椹了便行。
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山僧云く，「育王這裏を去ること多少の路か有る」。座云く，「三十四五里」。山僧云く，「幾ばく時か寺裏に廻り去るや」。座云く，如今（いま）椹を買ひ了らば便ち行（さら）ん」。
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【85】山僧云。今日不期相會。且在舶裏説話。豈非好結縁乎。道元供養典座禪師。
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山僧云く，「今日期せずして相ひ會し，且つ舶裏に在て説話（せった）す。豈に好結縁（こうけつえん）に非ざらんや。道元典座禪師を供養せん」。
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【86】座云。不可也。明日供養。吾若不管。便不是了也。
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座云く，「不可なり。明日の供養，吾れ若し管せずんば，便ち不是（ふぜ）にし了（おわ）らん」。
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【87】山僧云。寺裏何無同事者理會齋粥乎。典座一位。不在。有什麼欠闕。
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山僧云く，「寺裏何ぞ同事の者齋粥を理會する無からんや。典座一位，不在なりとも，什麼（なん）の欠闕（かんけつ）か有らん」。
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【88】座云。吾老年掌此職。及耄及之辨道也。何以可讓佗乎。又來時未請一夜宿暇。
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座云く，「吾れ老年に此の職を掌（つかさど）る。及ち耄及（ぼうぎゅう）の辨道なり。何を以て佗に讓る可けんや。又た來る時未だ一夜宿の暇を請はず」。
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【89】山僧又問典座。座尊年。何不坐禪辨道。看古人話頭。煩充典座。只管作務。有甚好事。
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山僧又典座に問ふ，「座尊年，何ぞ坐禪辨道し，古人の話頭を看せざる。煩く典座に充て，只管に作務す，甚（なん）の好事か有る」と。
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【90】座大笑云。外国好人。未了得辨道。未知得文字在。
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座大笑して云く，「外国の好人，未だ辨道を了得せず。未だ文字を知得せざること在り」と。
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【91】山僧聞佗恁地話。忽然發慚驚心。便問佗。如何是文字。如何是辨道。
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山僧佗の恁地（かくのごとき）の話を聞き，忽然として發慚驚心（ほつざんきょうしん）して，便ち佗に問ふ，「如何にあらんか是れ文字。如何にあらんか是れ辨道」と。
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【92】座云。若不蹉過問處。豈非其人也。
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座云く，「若も問處を蹉過せずんば，豈に其の人に非ざらんや」と。
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【93】山僧當時不會。
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山僧當時（そのかみ）不會（ふえ）。
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【94】座云。若未了得。佗時後日。到育王山。一番商量文字道理去在。
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座云く，若し未だ了得せずんば，佗時（たじ）後日，育王山に到れ。一番文字の道理を商量し去ること在らん」と。
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【95】恁地話了。便起座云。日晏了忙去。便歸去了也。
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恁地（かくのごとく）話（かた）り了って，便ち座を起って云く，「日晏（く）れ了（な）ん忙（いそ）ぎ去（いな）ん」と。便ち歸り去れり。
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【96】同年７月。山僧掛錫天童。時彼典座來得相見云。解夏了退典座。歸郷去。適聞兄弟説老子在箇裏。如何不來相見。山僧喜踊感激。接佗説話之次説出前日在舶裏文字辨道之因縁。
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同年７月，山僧天童に掛錫（かしゃく）す。時に彼の典座來りて得相見して云く，「解夏了（かいげりょう）に典座を退き，郷に歸り去らんとす。適（たまた）ま兄弟（ひんでい）の老子が在りと説くを箇裏に聞く。如何ぞ來りて相見せざらんや」と。山僧喜踊（きゆう）感激して，佗を接して説話（せった）するの次で前日舶裏に在りし文字辨道の因縁を説き出す。
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【97】典座云。學文字者。爲知文字之故也。務辨道者。要（冖＋月）辨道之故也。
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典座云く，「文字を學ぶ者は，文字の故を知らんことを爲（ほっ）す。辨道を務る者は，辨道の故を（冖＋月）（うけが）わんことを要す」と。
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【98】山僧問佗。如何是文字。座云。一二三四五。
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山僧佗に問う，「如何にあらんか是れ文字」。座云く，「一二三四五」。
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【99】又問。如何是辨道。座云。（彳＋扁）界不會藏。
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又問う，「如何にあらんか是れ辨道」。座云く，「（彳＋扁）界會て藏さず」と。
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【100】其餘説話。雖有多般。今所不緑也。
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其の餘の説話（せった），多般（たはん）有りと雖も，今緑せざる所なり。
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【101】山僧聊知文字。了辨道。及彼典座之大恩也。
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山僧聊（いささ）か文字を知り，辨道を了するは，及ち彼の典座の大恩なり。
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【102】向來一段事。説似先師全公。公甚隨喜而已。
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向來一段の事，先師全公に説似す。公甚だ隨喜するのみ。
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【103】山僧後看雪竇有頌示僧云一字七字三五字。萬像窮來不爲據。夜深月白下滄溟。捜得驪珠有多許。
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山僧後に雪竇の頌有り僧に示して「一字七字三五字。萬像窮め來るに據（よ）りどころ爲（あら）ず。夜深（ふ）け月白うして滄溟に下り，驪珠（りじゅ）を捜り得るは多許（そこばく）か有る」と云を看る。
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【104】前年彼典座所云。與今日雪竇所示。自相符合。彌知彼典座是眞道人也。
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前年彼の典座の云ふ所と，今日雪竇の示す所と，自ら相ひ符合す。彌（いよいよ）知る彼の典座は是れ眞の道人なることを。
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【105】然則從來所看之文字。是一二三四五也。今日所看之文字。亦六七八九十也。
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然あれば則ち從來看る所の文字は，是れ一二三四五なり。今日看る所の文字も，亦た六七八九十なり。
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【106】後來兄弟。從這頭看了那頭。從那頭看了這頭。作恁功夫。便了得文字上一味禪去也。
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後來の兄弟（ひんでい），這頭從り那頭を看了し，那頭從り這頭を看了す。恁（かくのごとき）功夫を作さば，便ち文字上の一味禪を了得し去らん。
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【107】若不如是。被諸方五味禪之毒。排辨僧食。未能得好手也。
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若し是の如くならずんば，諸方の五味禪の毒を被りて，僧食を排辨するに，未だ好手たることを得（う）べからざらん。
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【108】誠夫當職先聞現證。在眼在耳。有文字有道理。可謂正的歟。
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誠に夫れ當職は先聞現證（せんもんげんしょう）。眼に在り耳に在り。文字有り道理有り。正的（しょうてき）と謂つべきか。
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【109】縱忝粥飯頭之名。心術亦可同之也。
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縱（すで）に粥飯頭の名を忝（かたじけの）うせば，心術も亦た之に同ずべきなり。
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【110】禪苑清規云。二時粥飯。理合精豐。四事供須。無令闕少。世尊二千年遺恩。蓋覆兒孫。白毫光一分功徳。受用不盡。
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禪苑清規に云く，「二時の粥飯，理すること合に精豐なるべし。四事の供，須らく闕少（けっしょう）せしむること無なるべし。世尊二千年の遺恩，兒孫（じそん）を蓋覆（がいふ）し，白毫光（びゃくごうこう）一分の功徳，受用不盡」と。
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【111】然則。
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然あれば則ち。
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【112】但知奉衆。不可憂貧。
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「但（た）だ衆を奉することを知って，貧を憂ふべからず。
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【113】若無有限之心。自有無窮之福。蓋是供衆住持之心術也。
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若し有限の心無んば，自ら無窮（むきゅう）の福有らん」と。蓋（けだ）し是れ衆に供（ぐう）ずるは住持の心術なり。
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【114】調辨供養物色之術。不論物細。不論物麁。深生眞實心。敬重心爲詮要。
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供養の物色を調辨するの術は，物の細を論ぜず，物の麁を論ぜず，深く眞實心敬重（きょうじゅう）心を生するを詮要と爲す。
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【115】不見麼。漿水一鉢。也供十號兮。自得老婆生前之妙功徳。菴羅半果。也捨一寺兮。能萌育王最後之大善根。授記別（艸＋別）感大果。
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見ずや，漿水の一鉢も。也（また）十號に供ずれば，自と老婆生前（しょうぜん）の妙功徳を得，菴羅（あんら）の半果も，也（また）一寺に捨すれば，能く育王最後の大善根を萌し，記別（艸＋別）（きべつ）を授り大果を感ぜり。
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【116】雖佛之縁。多虚不如少實。是人之行也。
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佛の縁と雖も，多虚は少實に如（し）かず。是れ人の行なり。
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【117】所謂調醍醐味。未必爲上。調フ（艸＋甫）菜羮。未必爲下。捧フ菜擇フ菜之時。眞心。誠心。浄潔心。可準醍醐味。
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所謂（いわゆる）醍醐味を調ふるも，未だ必ずしも上と爲さず，フ（艸＋甫）菜羮（ふさいこう）を調ふるも，未だ必ず下と爲さず。フ菜を捧げフ菜を擇ぶの時，眞心，誠心，浄潔心ならば，醍醐味に準ずべし。
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【118】所以者何。朝宗于佛法清浄大海衆之時。不見醍醐味。不存フ菜味。唯一大海味而己。
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所以（ゆえ）何（いかん）となれば，佛法の清浄の大海衆に朝宗するの時，醍醐味を見ず，フ菜味を存せず，唯一大海味のみ。
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【119】況復長道芽。養聖胎之事。醍醐與フ菜。一如無二如也。
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況や復た道芽を長じ，聖胎を養ふの事，醍醐とフ菜と，一如にして二如無きをや。
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【120】有比丘口如竈之先言。不可不知。
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比丘の口竈（かまど）の如しの先言有り。知らずんばあるべからず。
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【121】可想フ菜能養聖胎。能長道芽。不可爲賤。不可爲輕。人天之導師。可爲フ菜之化益者也。
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想ふべしフ菜能く聖胎を養ひ，能く道芽を長ずることを。賤しと爲すべからず。輕しと爲すべからず。人天の導師，フ菜の化益（けやく）を爲すべきものなり。
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【122】又不可見衆僧之得失。不可顧衆僧之老少。
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又た衆僧の得失を見るべからず。衆僧の老少を顧（かえりみ）るべからず。
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【123】自猶不知自之落處。佗爭得識佗之落處。以自之非爲佗之非。豈不誤乎。
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自（じ）猶（な）ほ自の落處を知らず，佗（た）爭（いかで）か佗の落處を識ることを得んや。自の非を以て佗の非と爲す。豈に誤まらざらんや。
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【124】耆年晩進。其形雖異。有智愚朦。僧宗是同。
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耆年（ぎねん）と晩進（ばんしん）と，其の形異なりと雖も，有智（うち）も愚朦（ぐもう）も，僧宗是れ同じ。
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【125】亦昨非今是。聖凡誰知。
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亦た昨は非なるも今は是（ぜ），聖凡（しょうぼん）誰（なんぞ）知らん。
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【126】禪苑清規云。僧無凡聖。通會十方。
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禪苑清規に云く，「僧は凡聖と無く，十方に通會す」。
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【127】若有一切是非莫管之志氣。那非直趣無上菩提之道業耶。
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若し一切の是非莫管（まつかん）の志氣（しいき）有らば，那（なん）ぞ直趣無上菩提の道業に非ざらんや。
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【128】如錯向來一歩。便及對面蹉過。
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如（も）し向來の一歩を錯（あやま）らば，便及（すなはち）對面して蹉過せん。
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【129】古人之骨髄。全在作恁功夫之處也。
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古人の骨髄，全く恁（かくのごとき）功夫を作すの處に在り。
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【130】後代掌當職之兄弟。亦作恁功夫始得。
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後代當職を掌（つかさど）るの兄弟（ひんでい）も，亦た恁（かくのごとき）功夫を作して始て得てん。
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【131】百丈高祖之規縄豈虚然乎。
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百丈高祖の規縄（きじょう）豈に虚からんや。
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【132】山僧歸國以降駐錫於建仁一兩三年。
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山僧歸國より以降（このかた）錫を建仁に駐（とど）むること一兩三年。
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【133】彼寺（矛＋攵＋心）置此職。唯有名字。全無入實。
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彼寺（矛＋攵＋心）（おろ）かに此の職を置けども。唯だ名字のみ有て，全く入の實無し。
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【134】未識是佛事。豈敢弁（冖＋月）道。
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未だ是れ佛事なることを識らず，豈に敢て道を弁（冖＋月）せんや。
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【135】眞可憐憫不遇其人。虚度光陰。浪破道業。
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眞に其の人に遇はず，虚く光陰を度り，浪（みだり）道業を破ることを憐憫すべし。
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【136】會看彼寺此職僧。二時齋粥。都不管事。帯一無頭腦。無人情奴子。一切大小事。總説向佗。作得正。作得不正。未會去看。
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會（かつ）て彼の寺を看るに此の職の僧，二時の齋粥，都（すべ）て事を管せず。一りの無頭腦，無人情の奴子（ぬす）を帯して，一切大小の事，總に佗に説向す。正を作得すも，不正を作得すも，未だ會て去（ゆ）いて看せず。
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【137】如鄰家有婦女相似。若去得見佗。及恥及瑕。
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鄰家に婦女有るが如くに相ひ似たり。若し去（ゆ）いて得佗を見れば，及ち恥とし及ち瑕（きず）とす。
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【138】結構一局。或偃臥。或談笑。或看經。或念誦。日久月深。不到鍋邊。
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一局を結構して，或は偃臥し，或は談笑し，或は看經（かんきん）し，或は念誦して，日久しく月深けれども，鍋邊（かへん）に到らず。
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【139】況乎買索什物。諦觀味數。豈存其事乎。
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況（いわん）や什物を買索（ばいさく）し，味數を諦觀するは，豈に其の事を存せんや。
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【140】何況兩節九拜未夢見在。
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何（いか）に況や兩節の九拜未だ夢にだも見ざること在り。
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【141】時至教童行也未會知。
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時至れども童行（ずんなん）に教ることも也（ま）た未だ會て知らず。
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【142】可憐可悲。無道心之人。未會遇見有道徳之輩。雖入寶山兮。空手而歸。雖到寶海兮。空身而還。
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憐むべく悲むべし。無道心の人。未だ會て有道徳に遇見せざるの輩（ともがら），寶山に入ると雖も，空手にして歸り，寶海に到ると雖も，空身にして還ること。
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【143】應知雖佗未會發心兮。若見一本分人。則行得其道。
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應に知るべし佗未だ會て發心せずと雖も，若も一本分人に見（まみ）へば，則ち其の道を行得せん。
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【144】雖未見一本分人兮。若是深發心者。則行膺其道。
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未だ本分人に見へずと雖も，若し是れ深く發心せば，則ち其の道を行膺せん。
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【145】既以兩闕。何以一益。
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既に以（すで）に兩つながら闕（か）かば，何を以てか一の益あらん。
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【146】如見大宋國諸山。諸寺。知事頭首。居職之族。雖爲一年之精勤。各存三般之住持。與時營之。競縁勵之。
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大宋國の諸山，諸寺，知事頭首の職に居るの族（やから）を見るが如きんば，一年の精勤爲りと雖も，各三般（さんぱん）の住持を存し，時と與（とも）に之を營み，縁を競ふて之を勵む。
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【147】已如利他兼豐自利。一興叢席一新高格。齋肩竸頭繼踵重蹤。
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已に他を利するが如く兼て自利を豐にす。叢席を一興し高格を一新す。肩を齋（ひとし）うし頭を竸ひ踵を繼ぎ蹤を重んず。
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【148】於是應詳。有見自如佗之癡人。有顧佗如自之君子。
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是に於て應に詳（つまびらか）にずべし。自を見ること佗の如くなるの癡人（ちにん）有り。佗を顧ること自の如くなるの君子有りことを。
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【149】古人云。三分光陰二早過。靈臺一點不揩磨。貧生遂日區區去。喚不囘頭爭奈何。
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古人云く，「三分の光陰二早く過ぐ，靈臺一點も揩磨（かいま）せず。生を貧り日を遂ふて區區（くく）として去る。喚（よ）べども頭を囘らさず爭奈何（いかん）せん」と。
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【150】須知未見知識。被人情奪。
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須（すべから）く知るべし未だ知識に見（まみ）えんざれば，人情に奪は被（る）ることを。
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【151】可憐愚子運出長者所傳之家財。徒作佗人面前之塵糞。
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憐むべし愚子長者所傳の家財を運出（うんすい）して，徒（いたづら）に佗人面前の塵糞と作すことを。
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【152】今乃不可然耶。
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今は乃ち然かあるべからざるか。
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【153】嘗觀當職前來有道。其掌其徳自符。
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嘗（かつ）て當職を觀るに前來の有道，其の掌其の徳自から符す。
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【154】大イ（さんずい＋爲）悟道。典座之時也。洞山麻三斤。亦典座之時也。
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大イの悟道も，典座の時なり。洞山の麻三斤も，亦た典座の時なり。
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【155】若可貴事者。可貴悟道之事。若可貴時者。可貴悟道之時者歟。
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若し事を貴ぶべき者ならば，悟道の事を貴ぶべし。若し時を貴ぶべき者ならば，悟道の時を貴ぶべき者か。
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【156】慕事耽道之跡。握砂而爲寶。猶有其驗。模形而作禮。屡見其感。
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事を慕ひ道を耽（たのし）むの跡，砂（いさこ）を握て寶と爲する，猶ほ其の驗（しる）し有り。形を模して禮（らい）を作す。屡（しばし）ば其の感を見る。
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【157】何況其職是同。其稱是一。
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何（いか）に況（いわん）や其の職是れ同じく，其の稱（しょう）是れ一なるをや。
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【158】其情其業。若可傳者。其美其道。豈不來乎。
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其の情其の業，若し傳ふべき者ならば，其の美其の道，豈に來らざらんや。
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【159】凡諸知事頭首。及當職作事作務之時節。可保持喜心。老心。大心者也。
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凡そ諸の知事頭首（ちょうしゅ），及び當職作事作務の時節，喜心，老心，大心を保持すべき者なり。
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【160】所謂喜心者。喜悦心也。
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所謂喜心とは，喜悦の心なり。
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【161】可想我若生天上。著樂無間。不可發心。修行未便。何況可作三寶供養之食耶。
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想ふべし我れ若し天上に生れば，樂に著め間（ひま）無く，發心すべからず。修行未だ便（べん）ならず。何かに況や三寶供養の食を作るべけんや。
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【162】萬法之中。最尊貴者三寶也。最上勝者三寶也。天帝非喩。輪王弗比。
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萬法の中，最尊貴なるは三寶なり。最上勝なるは三寶なり。天帝も喩ふ非（べか）らず。輪王も比せず。
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【163】清規云。世間尊貴。物外優間。清浄無爲。衆僧爲最。
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清規に云く，「世間の尊貴，物外（もつがい）の優間（ゆうげん），清浄無爲なるは，衆僧を最と爲す」と。
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【164】今吾幸生人間。而作此三寶受用之食。豈非大因縁耶。尤以可悦喜者也。
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今吾幸に人間に生れて，此の三寶受用の食（じき）を作ること，豈に大因縁に非ずや。尤も以て悦喜すべき者なり。
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【165】又可想。我若生地獄。餓鬼。畜生。修羅等之趣。又生自餘之八難處。
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又た想ふべし，我れ若し地獄，餓鬼，畜生，修羅等の趣に生れ，又自餘の八難處に生れば，
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【166】雖有求僧力之覆身。手自不可作供養三寶之淨食。
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僧力の覆身（ぶしん）を求むること有りと雖も，手ら自ら供養三寶の淨食を作るべからず。
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【167】依其苦器而受苦。縛身心也。
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其の苦器に依て苦を受け，身心を縛すればなり。
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【168】今生既作之。可悦之生也。可悦之身也。曠大劫之良縁也。不可朽之功徳也。
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今生既に之を作る。悦ぶべきの生なり。悦ぶべきの身なり。曠大劫の良縁なり。朽（く）つべからざるの功徳なり。
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【169】願以萬生千生。而攝一日一時。可辨之可作之。
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願くは萬生千生を以て，一日一時に攝し，之を辨すべく之を作るべし。
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【170】爲能使千萬生之身結於良縁也。
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能く千萬生の身をして良縁を結ば使（しめ）んが爲めなり也。
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【171】如此觀達之心。乃喜心也。
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此の如き觀達の心，乃ち喜心なり。
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【172】誠夫縱作轉輪聖王之身。非作供養三寶之食者。終其無益。唯是水沫泡（火＋(爪＋臼)）之質也。
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誠に夫れ縱ひ轉輪聖王の身作るも，供養三寶の食作ら非（ざ）る者は，終に其益無し。唯是れ水沫泡（火＋(爪＋臼)）（すいまつほうえん）の質なり。
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【173】所謂老心者。父母心也。譬若父母念於一子。存念三寶如念一子也。
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所謂老心とは，父母の心なり。譬へば父母の一子を念ふが若（ごと）し。三寶を存念すること，一子を念ふが如くせよ。
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【174】貧者窮者。強（弓＋(口＋虫)）愛育一子。其志如何。外人不識。作父作母方識之也。
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貧者窮者（ぐうしゃ），強（弓＋(口＋虫)）（ち）ながちに一子を愛育す。其の志如何ん。外人識らず。父と作り母と作て方（まさ）に之を識る。
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【175】不顧自身之貧富。偏念吾子之長大也。
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自身の貧富を顧みず。偏（ひとえ）に吾子の長大ならんことを念ふ。
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【176】不顧自寒。不顧自熱。蔭子覆子。
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自の寒きを顧みず，自の熱きを顧みず，子を蔭（おほ）ひ子を覆（おほ）ふ。
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【177】以爲親念切切之至。
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以て親切切切の至りと爲す。
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【178】發其心之人。能識之。慣其心之人。方覺之者也。
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其の心を發（おこ）す人，能く之を識る。其の心に慣ふ人，方に之を覺る者なり。
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【179】然乃看水看穀。皆可存養子之慈懇者歟。
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然あれば乃ち水を看穀を看るに，皆な子を養ふの慈懇を存すべき者か。
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【180】大師釋尊猶分二千年之佛壽。而蔭末世之吾等。其意如何。唯垂父母心而巳。
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大師釋尊猶ほ二千年の佛壽を分て，末世の吾れ等を蔭ひたまふ。其の意如何ん。唯だ父母の心を垂るるのみ。
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【181】如來全不可求果。亦不可求富。
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如來は全く果を求むべからず。亦た富を求むべからず。
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【182】所謂大心者。大山于其心。大海于其心。無偏無黨心也。
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所謂大心とは，其の心を大山（だいせん）にし，其の心を大海にす。偏（へん）無く黨（とう）無き心なり。
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【183】提兩而不爲輕。扛鈞而不可重。被引春聲兮。不游春澤。雖見秋色兮。更無秋心。
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兩を提（ひさげ）て輕しと爲なず，鈞を扛（あ）げて重しとすべからず。春聲（しゅんせい）に引か被（れ）て，春澤（しゅんたく）に游（あそ）ばず。秋色を見ると雖も，更に秋心無し。
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【184】竸四運於一景。視銖兩於一目。
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四運（しうん）を一景（いっけ）に竸ひ，銖兩（しゅりょう）を一目に視る。
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【185】於是一節可書大之字也。可知大之字也。可學大之字也。
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是の一節に於て大の字を書すべし。大の字を知るべし。大の字を學すべし。
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【186】夾山之典座。若不學大字者。不覺之一笑。莫度大原。
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夾山（かつさん）の典座，若し大字を學せずんば，不覺の一笑もて，大原を度すること莫らん。
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【187】大イ禅師。不書大字。取一莖柴。不可三吹。
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大イ禅師，大字を書せずんば，一莖柴（いっきょうさい）を取て，三たび吹くべからざらん。
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【188】洞山和尚。不知大字。拈三斤麻。莫示一僧。
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洞山和尚，大字を知らずんば，三斤の麻を拈じて，一僧に示すこと莫らん。
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【189】應知向來大善知識。倶是百艸頭上。學大字來。今乃自在作大聲。説大義。了大事。接大人。成就者箇一段大事因縁者也。
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應に知るべし向來の大善知識は，倶に是れ百艸頭上に，大字を學し來て，今乃ち自在に大聲を作し，大義を説き，大事を了し，大人を接し，者箇（しゃこ）一段の大事因縁を成就する者なり。
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【190】住持。知事。頭首。雲衲。阿誰忘却此三種心者哉。
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住持。知事。頭首。雲衲。阿誰（たれか）此の三種の心を忘却する者ならんや。
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